八間町マーケット

この絵は、実は私の母が描いたものです。
母は水彩画を描く人です。
もう絶版になってますが、
父の本『ふる里つるおか飲み屋ばなし』の
カバーに使われています。



この絵は、今はもうない、八間町マーケットを
大泉橋の上から昭和橋に向かって見たところです。
川は鶴岡市内を流れる内川という川です。

トタンを貼り付けた小さなバラック建ての家が、
ホントに川に乗り出すようにして並んでいます。
この並んでいる建物の向こう側が細い路地になっていて、
「八間町マーケット」と呼ばれる、市場のような通りでした。
本当に狭い細い路地で、両側のお店の軒が接して
アーケードのようになっていました。
お店は、魚屋、八百屋、種苗店、雑貨屋、カケハギ屋……などなど。
真ん中あたりには公衆便所。
(ということは、各家にはトイレがなかったんですね)
そして、その路地から川と反対の方向には
入り組んだ細い路地がさらに伸びていて、
そこには小さな飲み屋がぎっしりと並んでいたはずです。

当時子供だった私には、足を踏み入れてはいけない場所であり、
その入り組んだ路地の奥がどうなっていたのかはわかりません。
ましてや、そこの夜の様子など知ることはありませんでした。
(父は毎晩のように飲み歩いていたようですけどね)

でも、母に連れられてマーケットに買い物に行くと、
そっち側の路地では
派手な服を着た女の人が眠そうな顔をしてタバコを吸っていたり、
開店前のお店の開け放されたドアの中が見えたりと、
ほんの少し、あっちの世界を見ることはできました。
もう、西原理恵子漫画「ぼくんち」の世界です。たぶん。

「あっちの世界には行ってはいけないよ」という
母の有言無言のプレッシャーをもっともだと受け止めつつも、
その世界になんともいえない魅力を感じていた子供の私でした。

今はもう、トタン張りの傾いた建物はすっかり取り壊されて、
川沿いにひらけた明るい遊歩道になり、
狭い暗い路地はどこにもありません。
立ち並ぶお店も間口が大きく、建物も立派できれいになりました。
そこで商売をしている人々、毎日を暮らす人たちにとっては、
便利で清潔で、今の方がずっといいのだということはわかっています。
でも、鶴岡を離れてしまった者の勝手な郷愁から
勝手なことを言わせていただければ、
あの、細い暗い路地の奥にあったものを
なくしてしまわないでほしかったと思うのです。

結局踏み込んだことのない、あの細い路地の奥は、
今でもときどき夢に見ます。
実際は知らない街なので、夢の中のそれは、
お芝居の書割のように、薄っぺらです。
いや、実際も、子供だった昔に感じていたように、
どこまでも続いているような深い深い奥底などなく、
本当に薄っぺらな街だったのかもしれません。

でも、そんな薄っぺらな世界の住人になっていたら、
私はどうだっただろう。
今はもうない、暗い狭い路地の奥に、
安っぽい派手な服を着て立って、タバコを吸ってため息をついたり、
同僚のホステスと喧嘩をして泣いたり笑ったりしていただろうか。
「本当は東京に行きたかったんだ、
 デザインの仕事なんかしたかったなあ」なんて、
馴染みの客相手に言っていただろうか。

今さら鶴岡に帰って暮らしたいとは思わないけれど、
行ったことのないあの路地の奥には帰りたいと、
ときどきぼんやり想う。

藤沢周平の作品がまた映画化だそうです。
時雨みち」という短編集に収録されている
『山桜』という短編が原作だそうです。

まだ、正式発表じゃないのかな?
公式HPなどはないようですが、
この春から鶴岡でロケ開始予定だそうです。

満開の桜とか野道とかの情景が効果的に使われていて、
なるほど映画にしたらよさそうだなあ、と思われる作品です。

で、「鶴岡 映画撮影」でググッていたら、
他にも
「SUKIYAKI WESTERN DJANGO(スキヤキ ウエスタン ジャンゴ)」三池崇史監督
「おくりびと」滝田洋二郎監督
「ICHI」曽利文彦監督
などなど、鶴岡やその近辺で撮影中、
もしくは撮影予定の映画が続々と……

なんでこんなことに……? と思ったら、
庄内映画村株式会社という会社ができて、
鶴岡近辺、庄内での映画ロケを誘致しているのだとか。

なんか、こういう地域振興っていいと思う。
ハコもの作るばかりが地方の活性化じゃないよー、
というのは言われて久しいことですが、
そうはいってもなかなか他のことって
実行は難しかったりするじゃないですか。
それがちゃんとカタチになってる。カタチにしようとしてる。
ちょっと見直しましたよ鶴岡。

がんばってほしいものです。


鶴岡を舞台にした「やきとり屋ものがたり」は、
映画にできないかなあ、なんてちょっと妄想したりも……
あと、こんな話も映画向きでは?

この間から連載していた「やきとり屋ものがたり」
全部掲載し終わってしまいまして、
今は「つるおか飲み屋ばなし」の連載をしております。
まだ第一話で、これは昔の鶴岡の飲み屋の名前が
ずらずらと出てきて、当時(昭和三十年~四十年代)を
知っている人なら懐かさいっぱいでしょうが、
そうでないと、ちょと退屈だろうかと思います。
第二話からは、昔の鶴岡を知らない人でも楽しめる、
昭和レトロな思い出話になるんですけどね。

まあ、この第一話も、実在した飲み屋の名前はともかく、
キャバレー、グランドバー、サロンバー、スタンドバーなどなどの
違いがわかるという方なら、それなりに楽しめるのでは、と。
(く、苦しいっ)