「ジュリーのシングル曲で昭和女性史」を考えてみよう、
という無謀なことをやっております。
どこまで続くかわかりませんが、
途切れ途切れにでもやっていこうかと思います。
カテゴリは【ジュリーシングル曲で昭和女性史】
できれば、最初から順番に読んでいただけると嬉しいです。




「許されない愛」「あなただけでいい」「死んでもいい」
3曲まとめての記事・その1の続きです。
またしても長いです。


この「不倫三部作」のストーリーは、
その1で語ったように、
現実ではいつまでもジュリーばかりを
見ているわけにはいかなかったファンたちの状況に
ぴったり合って、ヒットしたわけですが、
このストーリーに登場する「あなた」という女は、
主に男性視点である世間様から見ても
都合のいいものだったんじゃないでしょうか。
世の奥様たちがみんな、ジュリーみたいな若い男と、
ふらふら不倫してたら、そりゃあ大変ですが、
でも、ジュリーの歌の中の女は結局は若い男とは一緒になれず、
元の結婚生活から逸脱することはありません。
女とはそういうものだよ、と言っているわけで、
現実の結婚相手の男たちにしてみれば、
夢の世界はそれはそれとして、
結婚生活の破綻はなく、ひと安心ということです。
若い男のほうも、「命かけた愛」とか言うわりに、
実際に奪って逃げるわけでもないようですしね。
逃げるのは自分だけです。

「許されない愛」が収録されているアルバムのストーリーでは、
主人公の「僕」が好きになったのは、
尊敬している大事な友達でもある船乗りの奥さんで、
奥さんのほうは、連れて逃げてよ的なことを言ってるのに、
「僕」は、尊敬する男の幸せを奪うことはできないなんつって、
身を引くんですよ。
んなこたわかってんだから、
最初から関わるなっつう話ですけどね。
ま、愛は止められなかったてなとこなんでしょうけど、
勢いに任せてヤっちゃったんなら、
最後まで責任取れってんですよ。
その奥さんは、その後どうしたんでしょうなあ。
アルバムの最後の曲「船出の朝」では、
「朝のお茶をいれ きっとあの人は
 僕のことなど 忘れるよ」とか言ってますし、
流れから察するに、
船旅から戻ってきた旦那と元の暮らしを続けるんでしょうが、
これって、男には超都合のいい話ですよね。
若い男のほうにも旦那のほうにも、どっちにも。

「僕」は、愛を失って苦しんでるようですが、
ま、下世話に言えば「ヤリ逃げ」。
旦那のほうは、留守の間のできごとですから、
なんとか隠しおおせてなにも知らないままなら幸せだし、
もし仮にバレてしまったとしても、
「僕」はもう遠くへ行ってしまっていて、
奥さんはどこにも行かず、自分のそばにいる。
そこは大人力を発揮して、なにも知らなかったことにすれば、
丸く収まるって寸法です。
女は連れて逃げてもらえなかったらどこにも行けず、
旦那の元にいるしかないんです。
1972年の現実の女はもうちょっと主体性があるんじゃないかと
思うんですが、ジュリーが歌うこの世界の女は
勝手に自分ひとりで若い男を追いかけて出ていったりはしません。
そんな世界なんですよ。
よかったデスネ(毒)。

しかも、このアルバムの最後と最初は同じ効果音を使ってて、
ループしてるんですよ。
「僕」は、傷付いて船出して、流れ着いた別の港町で、
また同じヤリ逃げを繰り返すんかと、
さすが、のちの「ダーリング」水兵さんだぜと、
思わず毒づきたくなったりしますが、
まー、これは文学的に解釈するなら、
「僕」=ジュリーは、この物語の中に閉じ込められて、
外=現実には出てこられないということなんでしょう。
「僕」は、命かけて愛したたったひとりの「あなた」と、
繰り返し出会い、そして別れる。
そのたったひとつの物語だけを繰り返すんです。
その先はありません。
「死んでもいい」でも、
「僕は旅の果て これより先はないから」って言ってますしね。
大人になった少年が戻ってきて、
やっぱり「あなた」がいい、とか言って旦那と対決したり、
「あなた」がどこかで偶然、少年とまた巡り会って、
焼けぼっくいに火がついて…なんていう続編はありません。
「あなた」は「僕」が去ってしまったことを嘆きながらも、
元の暮らしに戻り、もうそこから動くことはありません。
「僕」=ジュリーは、現実世界には影響しないんです。
「あなた」に自分を投影して、ぽわわ〜んとなるにせよ、
フィクションとしての恋愛物語を楽しむにせよ、
ジュリーの歌う「不倫三部作」は、
閉じた架空の世界のことにすぎません。
現実の男たちは
「あんな夢物語に夢中になって、女はしょうがないな」
とかなんとか言いつつ、日常は変わらず、
奥さんは家事をやり子育てをしていて、
安泰なわけですね。うぎー。

そしてこれは、当時の親世代の価値観とも合致していました。
72年当時に20歳前後の子供がいる親世代と言えば、
当時40〜50歳ぐらいでしょうか。
大正から昭和ヒトケタぐらいまでの生まれで、
1930〜40年代に青春時代を過ごされた方々が
ほとんどじゃないかと思います。
その時代は戦争があったりで大変な時期ですし、
戦後は社会全体が激しく変わったとはいえ、
終戦までの日本は(家や地域によっては終戦後も)
家父長制という家単位の考え方が主流でした。
家の中ではお父さん(もしくはお祖父さん)の言うことは絶対で、
家族、特に女性はそれに従わなければなりませんでした。
その家父長が、きちんと責任をもって家族のことを考えて、
それぞれの進路なりを指示してくれればいいんでしょうが、
世の中、そんなにできた人ばかりではありません。
結果、女性差別とか人権侵害とか、
いろいろと問題の多い形になってしまったわけですが、
それが「問題」だと認識されるのは、ずっと後のことです。
戦前は、男も女も、親が決めた、ときには顔も知らない相手と
結婚することが普通のことでした。

以前作った同人誌【稀人舎通信8号】
特集「恋愛という物語」の座談会中で、金井景子さんが、
「天の夕顔」(中河与一)という小説を紹介してくださったんですが、
これは、1938年に発表され、戦中戦後にわたって45万部を売った
浪漫主義文学の名作と言われています。
内容は、まさに「許されない愛」の世界。
「わたくし」が学生時代に出会った人妻に恋をし、
想い合って、何年もくっついたり離れたりするんですが、
決して結ばれることはないという恋愛物語です。
人妻は「わたくし」といい感じになるたびに、
「もうお目にかかれません」とかなんとか言い、
でもまた会えば「会いたかった」的なことを言って、
気を持たせたりするのに、また拒絶するの繰り返しです。
「わたくし」はその何年間かの間には、
別の娘と結婚したり、その結婚生活が破綻すると、
また人妻に会いにいってまた拒絶されて
山に籠もったり(!)し、
最後は人妻のほうが死んでしまっておしまいです。
この物語のどこがよくて名作とされているのか、
私にはさっぱりわからなかったんですが、
紹介してくれた金井さんによれば、
「許されざる関係性の中で愛が勃発して、
 それに結婚という形の終着駅を求めないけれども、
 決定的にお互い心の中に相手が大きな位置を占めていて、
 人生を苦しむという物語であり、
 これが戦前の家父長制の中では好きな人とは絶対結婚しない、
 という状態の中でリアルな恋愛として受け取られた」
ということでヒットした作品だったというのです。
1938年といえば、まさに1972年ごろの親世代の青春時代。
彼らは、こういう恋愛小説をリアルだと感じて読んで、
ぽわわ~んとしていたんですよ。

というわけで、
男女が並んで歩く「君をのせて」の恋愛観は
受け入れられなかったかもしれない親世代の大人たちも、
「天の夕顔」と同じような世界観の「許されない愛」なら、
馴染みのある恋愛物語として
受け入れられたんじゃないでしょうか。
1971年の進歩的な恋から、
一気に30年以上も時間を巻き戻してしまったわけですね。
72年当時の日本は、戦後27年が経ち、
民主主義の国になってはいましたが、
戦前に生まれ、教育を受けた人たちが
まだまだ実権を握っていた社会です。
若者たちがいくら自由を謳歌していても、
やはり、そのころの日本のフォーマルと言えば、
戦前の家父長制が幅を利かす世界だったように思います。
少女漫画でも、70年代はまだ、
「親の決めた許嫁」ってのが出てきて、
それに反発して……というお話がいっぱいありました。
私のような庶民とは違う、ちょっと上流階級の家で、
着ている服もインテリアも、もちろん男の子も、
みんなキラキラしている世界のお話です。
私もそういう漫画を普通に読んで、
普通にぽわわ〜んとなってましたよ。
「君をのせて」の記事中でも書いたように、
ジュリーというキャラは、なんとなく育ちのよい雰囲気があって、
ゲバ棒持ってデモに参加したり、
もさもさの長髪にして破けたジーンズに下駄履きよりも、
たとえ長髪でも、フォーマルスーツで
年上の女性をエスコートしている姿のほうが
似合うイメージがあります。
当時の重苦しい少女漫画(一条ゆかりとかですね)に登場する
男の子キャラはどう見てもジュリーですねってのが、
わんさか出てきてましたよ。
ジュリーは王子さまってだけあって、
こういう旧態依然とした世界観のほうが
しっくりきたってことでしょうか。


続きます。
まさかの3回連載。
まあ、3曲分ということなので、
よろしかったらもう少しお付き合いくださいませ。

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